2006年5月〜9月
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穴窯体験(3)

去年の、初めての穴窯体験での感動が、まだ覚めやらない5月、今年も穴窯をやることになったと知らされて、複雑な気持ちになりました。と言うのも、去年は準備期間が短くて、穴窯用の作品は、教室で2.3個と、現地に行って1日かかりっきりで時間に追われて作った物だったので、自分的にはイマイチ納得の行かない物でも決められた数を作ろうと余裕がなかった事が思い出されて・・・・・が、今年は、焼成予定は9月なので、それまでに自分で納得の行くものを作ろうと5月から取り掛かることになりました。
このページは準備期間から記録していきたいと思います。頑張らなくちゃ・・・・


2006年5月12日
地球上に有るさまざまな岩石は、元を正せばすべて火成岩で、火成岩から粘土になるまでには、長い年月を掛け、砕け、風雪に晒され、水に流されて運ばれていく途中で、粒の粗いものは沈殿し、そうでないものは遠くまで流されて堆積します。風化作用を直接受けた岩石を「母岩」と言い、比較的「母岩」に近い位置で粘土になったものを一次粘土、もっと遠くに運ばれて堆積したものを二次粘土というそうです。一次粘土と二次粘土の中間の粘土を蛙目粘土、二次粘土は木節粘土や赤土です。教室には、山から掘って来たばかりの木節粘土が用意されていました。この粘土で穴窯の作品を一つ作る為には粘土の中に混じっている木屑や草や石ころを取り除いて泥状にしなくてはなりません。   
   

指先の感触で、木屑や石ころを探し
根気良く取り除きます。
 

この粘土は何万年前の木や草が集まっているのでしょうか!

太古の音が聞こえそうで、ロマンを感じずにはいられません。

粘土の断面を切り取り、そのまま作品にしたい感じです。
 
これは「青木節粘土」と言って、粘土の有る山全体が青く見えるそうです。
その粘土の中にも、写真でも分かるように、いろんな色の粘土の集まりです。黄色は水酸化鉄、濃いグレーの粘土は指で触ってもはっきりと分かるくらい他より硬くて、信楽土とほぼ同じだそうです。奈良県の月ヶ瀬、古代琵琶湖の跡で採取出来るそうですが・・・・・

こうして最初から作った粘土と、今までの陶芸粘土との違いは、どのように作品に現れるか、とても楽しみです。

ごみを取り除いた後の粘土です。これから水を足して泥状にします。


6月2日
素焼きの器に布を敷き時間を掛けて水分を蒸発させます。
因みにこれは、私たちが木屑やゴミを取り除いた粘土では無く、別の粘土です。


6月23日
次はこのようにして、更に水分を取り除いていきます。
7月
これこれ、私たちが、チマチマとゴミや木屑を取り除いた「青木節粘土」は、下の写真の(1)と(2)です。(3)は先生が念入りに作り上げた「青木節粘土」です。粘土表面のキメの違いが分りますか?写真では分りにくいですが、私達の(1)と(2)は、未だ取りきれてないゴミや木屑が見えますが(3)の粘土はかなりキメが細かく仕上がっています。この粘土の違いが、作品にどのように現れるのでしょうか!
焼成作品

(1)
この粘土でぐい飲みを作ります。
 

(2)
ホラ!
これが取りきれなかった木屑

(3)
この粘土で徳利を作ります。

6月9日
穴窯用に備前土で、紐作りで作った後、轆轤で水引きをした花入れです。花を入れた時に倒れないように底を分厚く作りました
素焼き済み画像

6月23日
初めてテラコッタを使って作ってみました。これも、最初紐作りで作った後、轆轤整形しました。これも穴窯に入れます。
素焼き済み画像

水漏れしないように、
壺の内部に釉薬を掛けます。
「無鉛楽釉」

8月4日
これは、皆でゴミや小石をチマチマと、取り除いた、手作りの青木節粘土で作ったぐい飲みと、
先生が丁寧に作った青木節粘土で作った徳利の素焼き完了状態です。今の状態では粘土の違いは余り分りません。

穴窯で焼成する時は、右の写真のように重ねて焼く予定です。
どんなに焼きあがるのか楽しみです。


8月18日
素焼きされた作品をダンボールに詰めて、発送します。
さあ、いよいよ穴窯体験パート2です。
2006年9月2日〜3日
甲斐大和に有る穴窯に集合した時は、穴窯の状態は既に1000℃を超えていた。火入れから今日でもう三日目を迎えているわけで、又々私たちは一番良い所だけ体験するわけです。大変なのは窯詰めで、粘土の種類によって、どの辺りに置くかで、焼き上がりが違ってくるわけで、そんな場面も全部素通りして、のん気にやって来ました。




一年ぶりの穴窯は、去年より周りのレンガが、しっかりと積まれているように感じました。炊口の鉄板も新しくなっていました。この穴窯は作られて22年程経過しているそうです。

風、気候、温度、湿度、人、などなど自然の作用によって毎回作品の焼き上がりが全然違うそうです。二度と同じものが作れないのが、穴窯作品の特徴なのでしょう。
14:30(1167℃)
風の方向によっても、薪のくべ方を変えて行くんですね!
風が強いと炊き口の下にレンガを置いて風を調節するし、気が抜けないんです。

今回は、急に温度を上げないで、じわじわ長時間炊く方法でやる予定だと説明があった。順調に温度が上がり安定しているので、皆で順番に薪を入れ、一時間に7〜8束の薪を燃やします。

進行過程を、細かくグラフに記入してデーターを取ります。
一番奥から備前、テラコッタ、木節粘土、信楽と火に弱い粘土から順番に6列に詰めています。棚の下の方は余り詰めないように隙間を開けたり、背の高いものと低いものを交互に並べたりして火の通りが良いようにします。

窯詰めの写真を見ながら誰の作品が何処に有るか説明を聞きます。約280個の作品が入っています。

今日は午後4時に1200℃を目標に温度を調節していきます。
15:30 (1178℃)
16:00 (1180℃)
16:30 (1184℃)

窯の神様良い作品が出来ますように、塩と酒を供えています。

1200℃になるのは難しい。
17:00 (1164℃)
炊き口を開けて、全員で中の様子をを見たので急に温度が下がりました。
温度計は窯の中央辺りとたきぐちの横についています。二つの温度計の差に気をつけないといけません。
差が大きいと窯の後ろの方は温度が低くて作品が焼けない場合があるからです。

17:30 (1153℃)食事タイム
19:00 (1178℃)
周りの柱も熱くなっています。窯から薪を離して置き直しました。
窯の温度が上がってくると薪に火が付くこともあるそうです。
19:30 (1163℃)
ここで炊き口に薪をいっぱいに詰めて、薪で蓋をします。「木蓋」というそうです。それを少しずつ中に押し込んで行きます。それは、入り口にオキが山盛りになっているのでそれを減らす意味と、一度に勢い良く炎を出す事で今まで炎が当たって無かった部分まで炎が行き届き、いわゆる窯の掃除が出来るのです。
20:00 (1159℃)
煙突の蓋を全開にした。炎が闇を焦がしドンドン温度が上がってくる。
20:30 (1167℃)
この時点で私は窯場を離れました。何にもしてないのに疲れちゃった〜!お先に失礼します。
9月3日(日)
9:00 (1184℃)
9:50 (1200℃)
目標温度に達成した瞬間、温度計のブザーが鳴り響き全員拍手歓声。
しばらく薪をくべるのを休み、オキにして又、中のテスト用の器を出してみる。

真っ赤に焼けた古信楽のテスト用器。見る見るうちに色が変わって行きます。不思議だ〜!えも言われず神秘的!
(1) (2) (3) (4) (5)

その時点で又温度が下がり1167℃それから徐々に又、温度を上げて行き、
10:35 (1170℃)
そろそろ火止めの準備に取り掛かる。教室で出た削りカスと、耐火煉瓦の粉を混ぜてセメント状に煉る。




11:45 滝口の下にレンガを3個置いて窯に入る空気を少なくして、又おきをかき混ぜる。
12:00
その直後又すぐにオキをかき混ぜて、「予定変更だ」と言いながら先生が炊き口に「木蓋」をして、煙突の蓋を開けて、さらに薪を入れ、急激に温度を上げる。

こう言う進行は、勘なのか、経験なのか・・・・
 

急激に温度を上げ、炎が噴出し口から勢い良く出ている間に炊き口と、 下の口に、隙間無くレンガを詰める。

それからすぐに、準備してあった耐火煉瓦の粘土で窯の隙間を埋めていく。窯の中の火がレンガの隙間から見える所を、ことごとく埋めていく。粘土が足りなくなって12:45終了。

一週間後の窯出しまでこのまま自然に冷めるのを待ちます。待ち遠しいような、不安なような気持ちです。
焼き物は一に焼き、二に土、三に成形と言うそうですが、穴窯を体験してその意味が少し分かったような気がします。大変な作業だもの!
 
窯出し(2006.09.10)
待ちに待った窯出しの日がやってきました。この一週間は普段より長く感じたような気がします。東京は、朝から、どんよりとして、天気予報では雨が降るらしい。甲斐の山ではもう寒いかもしれないと、用心に上着を持って出かける。中央特快なんていう電車にのんびり揺られて穴窯に付いたのは午前10時。
甲斐の山は、強い日差しに、ススキの穂が輝いて、蝉の声がうるさいくらいに響いていました。
 

穴窯は、一週間前に閉じたままで、じっとこの時を待っていたかのように、そこに有りました。

隙間を塞いだ粘土もすっかり乾燥して触ればボロボロと落ちます。
すぐにでも窯の中を見たいけど・・・・

通常だと最初はバーナーで温度を上げるが、今回は薪(赤松)のみで焼成した。赤松はヤニが有るので良く燃える。薪も乾燥しすぎているのは、ぱっと燃えてしまうから良くない。少し生っぽい方が長時間燃え続けるなどそれぞれ特徴が有り、乾燥した薪、湿っぽい薪、節のある薪、細い薪。太い薪、と、その瞬間瞬間の状態に合わせて使い分け無ければならない。いつもは400束前後使用しているが、今回は540束使った。

急に温度を上げないでじわじわと長時間焼成し、90時間薪を炊き続けた。グラフに「カギ」とメモが有るのは、鉄のカギでオキを掻き出した印、
など、など、今回の焼成に付いて、グラフを見ながら細かく説明があった。

さあ!いよいよ窯の口が開いて中が見えました。真っ暗ですが、それぞれの土の塊は1000℃以上の熱で焼かれ続けて、どのように姿を変えているのでしょうか!!

「一列目」

一番火に近い場所には、古信楽、信楽の作品を置いています。

一番手前の作品は、焼成中、ずっとオキの中に埋もれて見えなかったものです。

炊き口に近い場所は1300度まで温度が上がっていました。

ぺちゃんこに、ひしゃげているのも有りました。
「二列目」
一列目の作品を全部出して、
二列目には、信楽やテラコッタなどです。


窯の内部は、1720℃まで耐えられるという耐火煉瓦で、
思ったより頑丈に、きっちりと積まれていました。

窯の温度ではなく、作品そのものの温度を測るための「ぜーゲル」三本のうち一番右のは高熱で溶けてしまっています。
「三列目」
信楽やテラコッタ。
どの作品も良い色になっている感じ!

まだ、私の作品は出てこない。心配だ〜!ドキドキ!

真ん中の辺りで約1280℃まで上がっていました。
「四列目」
ドンドン作品が遠くなる。
窯の中は、まだまだ暑くてちょっと中に居るだけで汗が出てきます。

カメラのレンズが曇らないか心配!

窯内部3メートルの倒炎式のこの穴窯は、築22年を経過し、途中で何度も修復をしたとは言え、内部もしっかりとしていて、もっと原始的な作りかと思っていたけど・・・・何故か感動!
「五列目」
こんな後まで炎が十分に届いていたんだ!

窯内部の耐火煉瓦に灰が付き、それが釉薬となってブルーやピンクなど、えもいわれぬ美しい色を発していました。

あの壺がこの色になれば良いのに〜!
と、思わず口走ってしまいました。

「六列目」
一番後の列には、火に弱い備前土の作品が並んでいます。

それでも、1180度まで上がっていました。

一番後ろの火の回りが届かなかった場所にはテスト用の作品が置かれていたので、がっかりした人は居なかったようです。火の走り方を考えて窯詰めした結果、どの作品も今までで一番良い焼き具合だったようです。

全部の作品が外に出されて、その列毎に窯詰めの際の写真と同じに並べられ、炎がどのように作用したか、炎の動きが手に取るように想像できて、これまた感動!





こうして280個前後の作品が一同に並べられると、凄い!の一言・・・・こうなると、上手も下手も無いな〜!全部素晴らしい!
何時まで眺めていても、きりが無いので、皆で手分けして、ダンボールに箱詰めして、まずは、教室に持ち帰ります。

完成作品は後日アップします!

11月7日
この度の穴窯作品アップしました。

去年に続いて二度目の穴窯体験でしたが、又、今回は違ったやり方を経験して、薪のくべ方、温度の調整などによって出来上りに随分変化が有ると感じました。
ただの土の塊から、物を成形し、乾燥させ、火で焼く・・・・これだけの単純で、分かりやすい作業なのに、ただの土だった時と、焼成後の変化の差は、言ってみればマジックか、奇跡が起きたとしか考えられません。

土を焼いて器を作るという作業は、縄文や弥生の土器にも見られるように、人間の生活とは切っても切れない長い歴史を経て、今日に至っているわけですが、昨今の安直な大量生産の元に、何か、違う方向に目を向けさせられているような感じがして、「器」というものに対して私達が、今一度、原点に、思いを馳せる事が有っても良いのではないかと、思ったりしながら、甲斐の山を後にしました。
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